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2025.8.19
役員退職金を支払うに時に知っておきたい税務と実務のポイント
シリーズ退職金を考える(1)

はじめに
役員退職金の支払いは、会社にとって節税につながる大きな費用の発生でもありながら、税務調査で特に注目されやすい項目の一つでもあります。
特に近年では、確定拠出年金制度の拡充や、退職所得に関する手続きの見直しなども進んでおり、役員退職金を支払う側の法人としては事前に押さえておきたい税務ポイントがたくさんあります。
この記事では、役員退職金の支給を検討するにあたって、法人が気をつけておきたい大切な実務・税務のポイントを、Q&Aも交えながらわかりやすく解説します。
1.どうやって決める?退職金の決定方法とその根拠
役員退職金の支給は、以下のいずれかの方法で決定します。
- 定款で定めておく
- 株主総会の決議によって決める
実務では、定款で詳細まで定めているケースは少なく、多くの会社では株主総会で金額や支給時期を決議しているのが現状です。
(参考条文)会社法第361条(取締役の報酬等)
「取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益(以下この章において「報酬等」という。)についての次に掲げる事項は、定款に当該事項を定めていないときは、株主総会の決議によって定める。
一 報酬等の報酬等のうち額が確定しているものについては、その額
二 報酬等のうち額が確定していないものについては、その具体的な算定方法
また、定款や議事録に「退職金を支給する」とだけ書かれていて金額が明示されていない場合には、実際に金額を決めた日が「支給決定日」になります。
Q. 定款に「退職金を支給する」と書いてあれば、それだけで良いですか?
A. いいえ、それだけでは不十分です。
具体的な金額を株主総会などで決議しておく必要があります。定款だけでは金額の妥当性が説明できないため税務上の損金処理の根拠としては弱く、税務調査で否認される可能性もあります。
Q. 退職金規程を作らないとダメですか?
A. 義務ではありませんが、作っておくと安心です。
退職金の算定基準や支給要件を明文化しておくことで、支給の妥当性を客観的に説明できるようになります。就業規則のように社内規程として整備することで、税務上のリスクを軽減できます。
2.いくら払う?退職金額の決め方と「功績倍率」の考え方
役員退職金の額には、法律で定められたルールはありませんが、税務上「過大」と判断されると、経費として認められない可能性があります。
そのため、一般的には「功績倍率法」という計算方法をベースに金額を設定することが多いです。
最終の月額報酬 × 勤続年数 × 功績倍率 たとえば…
社長:2.0~3.0倍
常務・取締役:1.5~2.0倍 などが目安です。
(倍率はその役職での会社への貢献度に応じて設定します)このように報酬や勤続年数に加え会社の業績や役員の貢献度などを考慮して金額を決めることが大切です。
Q. 退職金の額は会社が自由に決めても良いですか?
A. いいえ、税務上は「合理的な金額」である必要があります。
根拠のない高額な退職金は、損金不算入(経費にならない)とされるリスクがあります。功績倍率法など明確な算定基準に基づいて、過去の報酬や在任年数、他社比較などを踏まえて設定する必要があります。
3.本当に退職した?「退職所得」と認められる条件
退職金は「退職所得」として扱われれば、退職所得控除や1/2課税の優遇が受けられます。
ただし、以下のようなケースでは、実際に退職しているかどうかの「実質性」が問われます。
- 代表取締役から非常勤役員に変わっただけ(いわゆる分掌変更)
- 退任後すぐに顧問契約をしたり、再任されたりするケース
- 職務内容・権限・報酬が変わっていない
実態として役員の業務が終了していなければ、「退職」ではなく「継続勤務」とみなされる可能性があり、税務上は退職金とされないリスクがあります。
Q. 分掌変更でも退職所得になることはありますか?
A. はい、あります。
ただしそのためには、職務・権限・報酬などに明確な変化がなければなりません。単なる役職名の変更など形式だけでは認められませんので、実質的な変化を証明する資料(辞任届・新体制の組織図・職務分掌表など)の準備が重要です。
Q. 退職金として支払ったあとで「これは給与です」と言われることはありますか?
A. はい、あります。
退任の実態がないと税務署に判断された場合、退職所得ではなく給与として課税されることがあります。その場合は、退職所得控除や1/2課税の優遇は受けられず、税負担が大きくなるため注意が必要です。
4.「退職した証拠」を残しておくことが大切です
税務調査で「これは本当に退職金ですか?」と問われたとき、しっかりと説明できるように資料を整えておくことが大切です。
主な必要資料
・株主総会議事録(支給決議)
・退任届・辞任届
・株主総会議事録(支給決議)
・退任届・辞任届
・最終月額報酬の証憑書類
・名刺・組織図・社内通知など、実態の変化を示す資料5.令和8年(2026年)からの提出義務に注意!
令和8年1月1日以降は、退職金を支払った場合の「退職所得の源泉徴収票・特別徴収票」の提出対象が拡大されます。
これまでは⇒役員退職金のみ提出
これからは⇒役員以外の従業員退職金も提出
社内での処理が煩雑になる可能性があるため、人事・経理部門担当者は提出を忘れないよう注意が必要です。
役員退職金支払いにおけるまとめの税務ポイント
役員退職金は、法人にとっては節税にもなる有効な手段ですが、形式的な処理だけでは通用しません。
- 支給決定は定款または株主総会で明確に
- 金額は功績倍率など合理的な基準で算定
- 実質的な退任であることの証明が必要
- 記録資料の整備が万全かをチェック
- 税務手続きの変更にも備えておく
支給を検討されている場合は、上記税務ポイントをおさえながら税理士などの専門家とよく相談した上で、丁寧に準備を進めることをおすすめします。
【執筆者プロフィール】

東元 美恵(とうもと みえ)
代表社員税理士(近畿税理士会 北支部所属)
行政書士(日本行政書士会連合会北支部所属)
freee認定アドバイザー
認定経営革新等支援機関略 歴:
平安女学院短期大学英文科 卒業
三井住友海上火災保険株式会社ほか、
資産税を得意とする税理士法人に5年間勤務後
2013年1月 税理士法人KTリライアンス代表社員就任
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